これは私の知人(男性)の身に起きた話です。仮にその人の事をAとしておきます。
Aが勤める職場のオフィスは大変広く、総務課や営業課など様々な課が入っています。イメージとしては何処かの市役所みたいな感じで、各課毎に間仕切りなどはなく所属課毎に机が固まっている様なオフィスです。
そんなオフィスの中で働くAは、以前であれば遅くとも18:00には仕事が終わり帰宅出来ていたそうです。しかし、ある時期から幾つかの事情が重なり大変忙しくなってしまいました。
Aの勤める会社では、丁度ライバル企業との厳しい競争に打ち勝つ為に何とかコスト削減を図ろうと取り組み始めていました。その一環として海外プロジェクトの立ち上げにかなりの力を注いでいたそうです。
その為、一部の優秀な社員達は海外出向で現地に行ってしまいました。そうなると、残された社員でこれまでの仕事を回さなければなりません。人員はかなり手薄になり仕事を回すのにもギリギリだったそうです。
人が居ない中で、各自には仕事の負担だけが重くのしかかって来ます。それだけでも大変なのですが、悪い事は続く様で更に追い打ちを掛けるように若手社員の中にはストレスに耐え切れず辞めてしまう者も出て来ました。
こうなって来ると中堅社員であるAには更に輪を掛けて負担が増して行きました。生真面目で責任感の強いAは必死に仕事を片付けて行こうと頑張りますが、やってもやっても自分の抱える仕事は減らず毎日一人で日が変わるまで会社に残る日々が続いたそうです。
そして・・
そんなある日、奇妙な事が起こりました。真夜中の2時過ぎの事です。
プルルルル♪プルルルル♪
夜中の事務所で電話が鳴り響いたのです。
Aも突然の電話に驚きます。
電話は2回程着信コールが鳴ったかと思うと音が止まりました。
でも・・
今度は又、別の電話が同じように鳴り響いたそうです。
プルルルル♪プルルルル♪
やはり2回鳴っては止まり・・
そして又、違う電話が鳴り響く・・・・・
この時Aはあまりの恐怖にただ震えるしかなかったそうです。
何故なら電話が鳴る内にAは気付いてしまったのです。最初は一番奥から掛かって来た電話が別の電話に変わる度に明らかに自分が仕事をしている机に近付いて来ている事に・・・・
そして・・・・
プルルルル♪プルルルル♪
プルルルル♪プルルルル♪
ついにAの目の前にある電話が鳴り響きました。しかも今までは2コールで止まっていたベルは何時までも鳴り続けているのです。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
Aは電話に出る事無くカバンも持ち帰らずに逃げるように事務所を出て行ったそうです。
疲労困憊で限界に近い状態でそんな体験をしてしまった事も有り、とうとうAも過労でダウンし入院してしまいました。
それで、この話の後日談ですがAは今は元気に仕事をしています。
実は仕事熱心なAが過労で倒れた事で、ついに上層部でも問題を提起し今の人員では仕事が回せないと判断して体制変更をしたのでした。
そして、これは後日Aから聞かされた意外な話の内容です。
「変な話かもしれないけど、僕はあの時に何かが掛けて来た電話に実は救われたんじゃないかって思う事があるんですよ」
「あの頃はあまりの忙しさに気が狂いそうになり、気付けば物凄く死にたい衝動にも駆られる様になっていました。確かにあの電話が掛かって来た時は恐怖で倒れてはしまったけど、結果的には職場の環境は改善されて僕も今は復職出来ているんですよね。」っと・・・
結局の所ですが、オフィスで掛かってきた電話が何者の仕業なのかは分かりませんでした。
ただ、僕は此の話を聞いた時に思いました。もしかしたらAが死にたいと強く思った瞬間に向こう側の世界と繋がったんじゃないかなって・・
そして電話の主は、やはりAに縁の深い何かであったんじゃないかなって思います。